髪の毛はぼさぼさのびほうだい。
このところ抜け毛がひどい。白髪も増えた。
もちろんすっぴん。ていうか顔洗ってない。
あっ口にさっき食べたとうもろこしのカスが…。

この2ヶ月。私はある人のためだけに24時間を捧げているのだ。

彼女のことを「姫」とよぼう。

朝は姫のシモのお世話に始まる。
そして、私の血を食料として、姫がご納得されるまであたえる。
姫のご気分がすぐれなければ、徹底的に快適にしてあげ、
姫が「もっとあたくしを楽しませなさい」と鼻息荒く命令すれば
寝不足だろうと熱があろうと、何時間でもつきあう。

夜は、姫が心地よく眠れるように優しげな歌をうたい、
夜中に姫が「わたくしノドがかわきましたの！」と起きれば
何度でもそのかわきをうるおしてあげるのだ。
しかも迅速丁寧にあくまで優しく！

そう。私はしもべ。
自分の時間などない。
姫が少し寝ているあいだに、ご飯をかっこみ、
姫のお洋服を洗濯し、部屋のほこりを払う、、もちろん姫のために。

だから、美容室で
「普段ワックス使ってますか？毎日髪のセットにどのぐらい時間かけてます？」
なんて言われても、遠い国から響いてくるタイコの音のようにしか聞こえない。
てんつくてんつく。

「あ、ワックス…使ってません。髪…今日ほどいてません…」
オシャレな美容員さんが鏡の向こうで苦笑している。

ごめんなさい。
全部てきとうでとにかく短く！30分で終わらせて！
……なんて客、美容のしがいがないですよね…。

でも、今の私はしもべなのです。
家では姫君が
「ワカバはどこにいったの！？わたくしお腹が減りましたの！！」
とキーキー騒いでいることでしょう。

・・と思うといてもたってもいられなくなり、
ダッシュで家に戻るのでした。